じゃそれで(Up to you)

オーストラリアで旅をしながらお仕事をする生き方を実践しています。

読書部

 この日は放課後に自動車免許関連の手続きをいくつかしなければならなかった。具体的に言えばケアンズ日本領事館に行き、申請しておいた日本の自動車運転免許の英訳された用紙をもらいに行くことと、それを持ってケアンズのトランスポート(陸運局)でオーストラリアの自動車運転免許を申請するという二点だ。

 

 

 放課後にできるだけ時間を作っておきたかったので領事館へは授業の中休みに小走りで向かうことにした。ただ途中で財布に15ドルしか入っていないことに気づき急いでATMを探す。何度かヘマをして下ろし損ねたが、来週からの旅行も見据えて少し多めに下ろしておくことにした。

 

 

 ATMで金を下ろすのに若干手間取ってしまったため、次の授業の最初に間に合わないことは明らかだった。そういうわけで僕は急ぐのをやめ、ゆっくりと領事館に向かうことにした。

 

 

 領事館に入ると早速、旨を伝え英訳された自動車運転免許の用紙をもらう。費用は24ドルとかなり高めに感じるが、税金を払っているわけでもないしこれも致し方ないことである。

 

 

 

 

 放課後はケアンズトランスポート(陸運局)に向かう。学校から歩いて約30分程度のところにあったので僕は歩いて行くことにした。地図は領事館でもらったのでそれを見ながら歩いていった。しかし行けども行けどもそれらしき施設は見えてこない。

 

ーーおかしいぞ。確かに印がついているのはここだ。しかし明らかに僕の目の前に

  あるのは車屋とスーパーマーケットだけだぞ。

 

 一瞬、この車屋陸運局を兼ねているのかと疑ったがそんなバカなことがあるはずがなく、素直に携帯電話で場所を確認した。すると携帯電話の地図アプリが示す陸運局の場所は印がついている場所と全く違うではないか。それに受付時間が残り30分とある。

 

 僕は地図に印をつけてくれた領事館職員に文句を言いたい気分だったが、そんなことをしている暇がなかったので素直に向かうことにした。今から歩けば何とかたどり着けそうだ。

 

 

 

 

 陸運局はフェンスに囲まれた平屋建てで、敷地面識も狭く、イメージしているものと違っていた。ここケアンズは巨大な車がたくさん流れているので勝手に巨大なビルディングを想像していたのだ。しかし確かにトランスポートと書かれている。

 

 

 

 僕はガラスがマジックミラーのようになっていて内側が見えない建物に恐る恐る入っていった。中に入ると日本の役所と同じような作りで割とたくさんの人が待合席で待機していた。

 

 なぜか少しだけ安心をして、タッチパネルで順番札を受け取る。このタッチパネル、最初にスタート画面があり、一度タッチしてから要件を選択する画面に移るのだが、なぜだが5秒ぐらいで最初の画面に戻ってしまう。当たり前だが英語表記なのでそんなにすぐに理解して選ぶことはできない。そんなわけで僕は5回ほどスタート画面に戻らざるを得なかった。

 

 

 

 やっとのことで順番札を受け取ったらすぐに僕の順番が来た。先ほどの苦労は何だったのか、この受付職員に僕は最初から要件を伝えねばならなかった。あまり要件ボタンは関係ないのかもしれなかった。

 

 僕は運転免許を作りたい旨を伝え、日本の自動車免許証、クレジットカード2枚、パスポートを職員に渡した。その後、住所とメールアドレスを伝え、証明写真を撮っておしまいだ。一年間の期限付き免許証で値段は74ドル。これは僕たち外国人もオーストラリアンも同じ値段のようだった。

 

 

 免許証発行まで2週間ほどの時間を要したので僕は仮の免許症を受け取りトランスポートを後にした。

 

 

 帰宅するのにも若干時間が早い気がして僕は海沿いで読書をすることにした。アンリ・ベルクソンの『笑い』という古い本だ。難しくて要所要所を飛ばし読みしていたが、そのうちに僕は読書ってこういうものかもしれないという感覚に浸っていた。

 昔から完璧主義だった僕は本を読むのでも一文一文の意味を頑張って取ろうとしていた。その上、集中力が続かなかったので一つの本を読むのでもえらく苦労をした。別に一文一文を吟味しなくてもいいとわかっていながら、そこを飛ばすと気持ち悪くてどうしてもそうすることができなかった。その感覚が変わってきたのが『深夜特急』を読んだあたりだったろうか。テンポ良く、平易な文は適当に流しながら読むのに適していた。それで特に困ることもなかった。

 

 『笑い』に関しては読了の締め切りを作ってみた。今日中に読み終わることにした。すると興味がないところは読み飛ばすことになる。どうせ興味がないものは頑張って読んでもすぐに忘れてしまうのだ。そんなことで必要箇所を必要最低限の時間で読む、という良い言い方をすれば時間対効果が高い読書法を身に付けることができたのだ。

 

 

 

 

 

 『笑い』を読み終わるといつの間にか日が落ちて、満潮に近づいていた。この海岸は5時過ぎぐらいになると突然「ザザーーッ」と音が鳴って、海水が満ちてくる。その情景が僕は好きだった。先ほどまで海鳥が歩いていた場所に、今度は他の鳥たちが泳いでいる。数時間で別の場所に来たような感覚を味わえた。

 

 

 バスの時間を見計らい、家に帰った。昨日、僕はジョセフィーナに夕飯のリクエストをしていた。ホームステイが終わる前に、もう一度スパゲティが食べたいと。そんなわがままに彼女は応えて、本日はミートスパゲティと手ごねハンバーグまでついてきた。

 

 

 食後はテラスで本の感想をしたためていた。最近はこんなルーティンになっている。オーストラリアンが寒いと感じるこの時期も僕からすると快適に夜風を受ける気持ちのいい時間だ。コーヒーを入れて書評を書く、これほど良い時間はなかなかにない、と感じる。

 

 

 

 この日は10時半から、日本時間でいうと8時30分から以前紹介した読書部のラジオ放送があった。それも初放送ということでこれには参加するしかなかった。昔では考えられなかったことで、一般人がラジオを放送するということが新鮮に感じられた。

 

 ラジオの中ではパーソナリティとゲストが各々、本を好きになったきっかけやオススメの本などを紹介した。最後には読書部に所属する部員が各々ブログに書いた書評のアドレスを公開しラジオは終了した。

 

 

 同じ趣味を持つ人たちが自分の好きなことを好き勝手に喋る、こんな無邪気な体験はもしかすると大学生以来だったかもしれない。この日は目が冴えてなかなか眠ることができなかった。