じゃそれで(Up to you)

オーストラリアで旅をしながらお仕事をする生き方を実践しています。

【5日目】チルダース→ハーベイベイ

【朝食】りんご、レーズンパン、インスタントコーヒー

【昼食】カプチーノ、りんごのキャラメルケーキ、りんご、洋梨、ティムタム

【夜食】パスタ、クリスティーナのキッシュ、インスタントコーヒー

 

 

 

昨日は二次会でバーに行き、ピンボールをしながらビールやビーフストロガノフなどを沢山ご馳走してもらった。そのため車まで帰るのが一苦労だったがお陰で朝まで目が醒めることはなかった。

 

 

 

朝起きると洗い物をさっさと処理して、ミリタリーミュージアムの開館時間を確認するためにチルダースの街に繰り出した。今日はこの博物館で昨日のお礼を込めて何か手伝うと約束していたのだ。

 


開館は9時からとなっており、まだ時間があった。そのため僕は街を徘徊することにしたのだが、あまりの冷え込みにすぐ断念して車に戻った。

 

 

 

開館時間を少し過ぎて博物館に顔を出すと、先客数名が受付でアレンと何やら話していた。挨拶を済ませ、彼らの話を聞いているとどうやら旧来の友人達のようだった。

 


しばらく彼らの会話の中に混じった後、僕は博物館の中を見て回ることにした。丁度、日本の軍事物コーナーを見ていたころ、先ほどの友人のうちの一人、キャラバンが博物館に響き渡る声でどこかから僕に話しかけてきた。

 


「おーい、ヒラ!昼飯食べたか?!まだなら食いに行くぞ!」

 

 

 

そういうことなら、と僕は一時的に博物館を後にして彼らに着いて行くことにした。話を聞いていると彼ら8名のうち4名がバンダバーグ、他の4名がマリーボローから来ているらしい。この二つの町の中間地点がここチルダースなのだそうだ。

 

 

 

僕はお洒落なカフェでその友人たちにカプチーノとりんごのケーキをご馳走になった。彼らとしては、今日も持参していた「I TEACH JAPANESE. YOU GIVE FOOD」の札を大変気に入ったらしく、キャラバンは僕の写真を何枚も撮っていた。

 

 

 

カフェで目の前に座ったのがエイドリアンだった。彼との会話からこの後の進路が決まることとなる。

 


「ヒラ、いつまでこの街にいるんだ?」

「今日か明日には出ようと思ってるよ。時間に余裕があるからね。」

「そうか…よかったら明日、マリーボローに来ないか?チャーチに行くんだが興味があったら着いて来てもいいぞ」

「チャーチか。確かに面白そうだ。どうせやることもなかったし明日、着いて行かせてもらうよ。」

「わかった。後、マリーボローの近くにハーベイベイってとこがあるんだが、そこも海が綺麗だからついでに行くといいぞ」

「うーん、あんまり観光地には興味ないんだけどエイドリアンが勧めるなら行ってみるよ」

 

 

 

そんな会話をしているうちに時間はいつの間にか2時間弱経ち、お開きとなった。このメンバーとはこのお茶会でだいぶ打ち解けたが、バンダバーグの4人とはここでお別れとなってしまう。そのうちの一人であるキャラバンは僕に名刺を渡し、バンダバーグに来る際は連絡するようにと言ってくれた。

 

 

 

 


バンダバーグ組とマリーボロー組が各々の車に乗り込んで帰った後、僕はチルダースを出ようと思った。居心地のいいこの街にいつまでもだらだらと滞在してしまいそうだったし、彼らとの別れを一つの区切りとすることにした。

 


今日はハーベイベイまで行こう。

 


ちなみに博物館はマリーボロー組と別れた後に寄ってみたが、閉館時間を2時間先駆けてすでに閉館してしまっていた。これも僕がこの街を出ようと思うきっかけとなった。

 


チルダースを出る前にインフォメーションカウンターと、昨日店前を貸してくれた服屋のオーナーに別れを告げて車に乗り込んだ。

 

 

 

 


車で1時間ほど運転をするとハーベイベイに到着した。想像していたよりも大きな街だ。ひとまずエイドリアンがおすすめしていた海沿いに行った。

 

 

 

一応、中心地と思われる海沿いのスポットに行ったが「海は海」と言わざるを得ない風景だった。確かに綺麗だが、綺麗なだけだ。

 

 

 

そう思い、僕はもう少し別のスポットを探してみることにした。

 

 

 

中心地からしばらく走ると、左手に住宅街、右手に海が見える地帯に入った。その道をまたしばらく走ると急に視界が開け、先ほどの海とは全く違う壮大な景色が僕の前に現れた。

 

 

 

僕は無意識に近くの芝生に車を止めて降車した。太陽の光を受けて白く光る海と東の方角へ視線をやるにつれて濃い青色になっていく海面のグラデーションがとても綺麗だ。高度がある場所に来ているためか海自体は遠いが、遮蔽物のないその景色をより一層雄大なものにしていた。

 

 

 

ベンチに犬を連れた老婦人が腰掛けている。どうやら海の絵を描いているようだ。僕は話しかけてみた。

 


「こんにちは。綺麗な海ですね。」

「そうね。今日は格別に綺麗だわ。」

「そうでしたか。僕は今日初めて来たもので…。良い日に恵まれました。」

「あなたどこから来たの?」

「日本からです。今は旅行中でケアンズからシドニーへ行く途中です。」

「日本ね。ここの人たちはみんなこの海を眺めて、『この先に日本がある』って言うのよ。」

「それは…なんだか素敵ですね。」

 

 

 

なんだかこの老婦人と喋っていると落ち着いてくる。会話のリズムが合っている感じがした。

 


「あなた、日本では何をしてたの?」

「先生をしてました。でも大変で辞めてしまいました。」

「そうなのね。じゃあ今は自分探しってとこ?」

「そんな感じです。これまでなかなか自分を見つめることもなかったので。」

「私も実はお花の先生だったのよ。教えるのは好きだったけれど、周りの人間関係が嫌で辞めちゃったわ。」

 

 

 

初対面にもかかわらず僕達は互いに踏み込んだ会話をした。自然とこの婦人には喋ってもいいと思えた。

 

 

 

「あなた、今日はどこで寝るの?」

「いつも車で寝てるのでどこか駐車場を探そうかなと思っています。」

「そうなのね。でも、この近くはいい場所がないわよ。キャラバンパークは50ドル取られるし。他の場所は一晩置いておけないわよ。」

「そうなんですか。まあ、起こされるまではどこかで寝るつもりです。」

「じゃあ私の家の庭に車を停めない?あなたがもし良ければだけど。」

「ええ、いいんですか?見ず知らずの僕を。それに旦那さんにも迷惑をお掛けしませんか?」

「一晩くらい構わないわよ。とりあえずアドレスと電話番号を伝えておくわ。」

「そう言っていただけるなら…お言葉に甘えることにします。ありがとうございます!」

「今日は夕日が綺麗に見えるわ。わたしは匂いでわかるの。よかったらうちに来る前に夕日を見ておいで。」

「わかりました。それではまた今晩、よろしくお願いします。」

 


その後、僕達は互いに忘れていた自己紹介を済ませ一旦別れた。彼女はクリスティーナという女性だ。

 


チルダースに来てからというもの人運が付いている。とりあえず人の善意ある提案には乗っかるということを日本でヒッチハイクした時に覚えたのだが(ブログの「じゃ、それで」はそういう意味でつけた)、ここでもそれが功を奏したようだ。

 


ただもしかするとクリスティーナには、僕を同情させてしまったのかもしれない。次からはそういう意味での善意にならないように注意せねば。

 

 

 

クリスティーナと別れた後、僕は夕日を見るために海沿いの西端に移動した。夕日を最大限に堪能しようと思ったからだ。

 


ただ夕日を見るにはまだ時間があるため、僕はここまでの日記を書いて時間を潰した。

 

 

 

パスタを食べながら夕日を見ていると、クリスティーナが乗った車がやってきた。写真家である夫と共に夕日を撮りに来たらしい。

 

 

 

夕日を少し見た後、クリスティーナが僕にカンガルーを見たいかと聞いたので、見たいと答えた。僕はその時、「この時間に空いている動物園なんてあるのか?」ぐらいにしか考えていなかった。

 


キャンパーバンを彼らの車の後ろに付けて行くと、クリスティーナの車は共同墓地の前に止まった。そこで降りろとの合図を出されたので降りて見ると、そこの墓地に野生のカンガルーが数十頭いるではないか。

 

 

 

どうやらハーベイベイのいくつかの共同墓地にはカンガルーの群れが住み着いているらしい。この数十頭ですら「小さい群れ」だと言うので、「大きな群れ」だと100頭くらいはいるのかもしれない。

 


驚く僕をよそ目に、クリスティーナはカンガルーに近づいていく。夫のケンは数枚写真を撮っていた。

 

 

 

 


実を言うと僕はオーストラリアに来て生きたカンガルーを見たのは初めてだった。運転中に路肩に横たわっている死カンガルーしか見たことがなかったのだ。しかし、これだけいると野生のカンガルーというのもありがたみが少なく感じるものだ。

 

 

 

 


初カンガルーを堪能した後は、彼らの家に向かった。キャラバンが二台と車二台が止まってもなお、僕のキャンパーバンが止められるといえばその庭の広さは伝わるだろうか。しかも僕はそこで寝るだけだと思っていたのだが家に招待していただいた。

 

 

 

いつのまにかコーヒーとクリスティーナ特製のキッシュをいただきながら僕と彼女はリビングルームで語り合っていた。

 


話を聞くとどうやら彼女は元々カウンセラーだったらしい。だからと言うわけではないが彼女にはなぜか包み隠さず正直に自分のことを喋れた疑問が解けた気がした。

彼女と喋っていて、言葉にすると陳腐化してしまうのが残念だけれど「心の声をしっかりと聞くこと」を大切にしようと思えた。

 

 

 

哲学者然とした彼女と話していると、なんだか『死ぬ瞬間の5つの後悔』の作者であるブロニーウェアと喋っているように思えた。そういえばブロニーウェアもオーストラリアンだ。

 

 

 

 


夫のケンは寡黙だったけれど、僕のキャンパーバンに充電コードを接続するためにあれこれと手を回してくれた。試行錯誤の末、コードが繋がった時、僕以上に嬉しそうな顔をする彼の顔がとても印象的だった。

 

 

 

 


その後、シャワーまで貸していただいた。そういえばこの度始まって以来であった。旅の垢をしっかりと落とし、リビングで一人、この日記を今書いている。

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